大増水! 超激流!! 水上峡!!!!

死して屍拾う者無し。流されカヌー拾う者無し の巻き


こちらはトノのレポートだ。刮目して読むべし!! くわッ!!



ラフティング屋にて

レゲエ:
いやー今日はちょっとマジでヤバいですよダムも放水しっぱなしですしね え? 二人でカヌーで下るんですか? うーんどうかなー今日は下のほうはもうラフでも下れないからカヌーは無理じゃないッスか ええ、上級コースも普段と下るルートを変えてるんですよ・・・・(まだまだ続く)

(・・・・ヤバいよ! ヤバすぎる。今日は利根川に挨拶代わりってことでカヌーやめてラフのツアーに合流したほうがよさそうだよこりゃ)

トノ :ねぇきこり、今回は下見ってことでみんなと一緒にラフでくだらないか
きこり:オレ、金ナイ。
トノ :えーッ?! でも普段の利根川ならまだしもプロがビックリするくらい増水してるんだよ。オレまだ死にたくねェよ
きこり:トノはみんなとラフで下れば。俺は一人でカヌーで下るから。
トノ :・・・・・・
(本当に金ないんだなァ・・・でもなぁ、もし一人で行かせて死なれたら後味悪いからなぁ)
トノ :金なら俺がなんとかするからさぁ・・・ラフで
きこり:いいからラフで下ってくればいいじゃん、遠慮しないで。
(こ、こいつ! 少しは危険性を考えろ!! うーん、しかしどうしたもんか)
きこり:まーそんなに心配しないで下ってみようぜ。大丈夫俺達死なないから
トノ :う、うーん そ、そかな(弱気)

 結局、財布が大変に寂しく、かつ大いにカヌーに乗り気のきこりの勢いに半ば引っ張られるような形でカヌーに連れて行かれてしまった。どうもきこりの文章ではその辺が明らかになっていないがこの際はっきりと申し上げておきたい。

「ラフの話を聞いた時点でワタクシは既にやる気を失っておりました!!」

 もし今後同じようなシチュエーションがあったら、迷わず、帝国金融から金を借りてでも二人でラフに参加する。少なくとも、初めての川、それも急流で有名な利根川上流を大増水の時にいきなりカヌーで下るような無茶は今後は絶対にすまい。

 それでも、どうしても、一人でもカヌーで下るときこりが言い張ったらどうするか? そのときは仕方ない。どれほど大切な友人であっても命ばっかりは分かち合うことはできないのだ。ゾフィーじゃあるまいし

「はっはっはっ、こんなこともあろうかと思って命を2つ持ってきた」

とゼットンにやられちゃった初代ウルトラマンの死をキャンセルするような真似はTVの中だけなのだ。握手をして静かに笑って見送り、彼の無事を祈るばかりだ。冗談抜きでそれくらいヤバかったのだ(あ、あと万が一の時のご両親への言い訳も考えとかなきゃ!)

ついに出発しちゃった

 てなわけで、出発するときは既にかなりビビリが入っていたのは間違いない。眼前に広がる水上の風景も今まで見た川のどれとも違う猛々しさに溢れていた。もうね、昨年の大増水時の那珂川(橋やら自動車やら牛やらが流されちゃったあの大雨の時)なんかメじゃないっすよ、ホント。ビビッてたからなおさらね。

 で、出発後最初の瀬でいきなり沈をした。カヌーで沈するのなんて実に2年ぶりくらいだ。ここも普段ならクリアできる瀬だったのだろう、きっと。しかしビビリが入り体がガチガチになっていたトノの漕力及びバランス感覚は平常時の何分の一に弱まっていて至極アッサリと瀬の餌食となった。

 むぅー マズイ マズすぎる。まだ出発して5分も経ってナイ。

ヤバいナー 激ヤバだナー

 ヤバいヤバいヤバヤバヤバヤバ!!! 

 自分の漕力及び精神状態及びバイオリズムがマックスかつベリーグッドかつ最強だったら、更に平水面でしか練習してないロールがいつもどおり決まれば あるいは乗り切れたかもしれない。しかし現実はそう甘くない。というか もう水の上に出ちゃったのだ! いまさら上陸するところはナイ。

ゴールまで行くしかない。ひぃ〜ィィ〜

 前を行くきこり艇を見ると、斜めに傾いたまま前進している。要するにこっちの漕力より流れのパワーが上回っているのだ!! こっちも漕いでも漕いでも波に翻弄されて思った方向に艇を向けることすら容易ではない。

 次の沈は結構大きな瀬だった。これも決して乗り切れない瀬ではなかったのかもしれない。けどナァ、ビビッて弱まっちゃったトノにはもうどんな瀬も大激流なのよ。こうなると体力の消耗も激しくもはや青息吐息。あーもう上がりてぇ。でもここいらで上がったら上陸地点まで歩いていくの大変だなー。あ、そうだきこり、さっきタクシー乗ったときの残りの金こっちヨコセ。よこしなさい! くれ 頼む〜それクダサイ〜。沈したら上陸地点までタクシーで行くからオレ。そっちが沈しても何もできそうもナイからヨロシク。

 こうして防水袋に入った現金をきこりから奪取する事に成功した。我ながら自分の危険予知能力にはびっくりだ。この直後、水上峡でホントにこのお金で救われることになったのだ。

 気を取り直して再度出発。問題の水上峡がいよいよ視界に入ってきた。両側の切り立った崖により急激に川幅が狭まり、これまでにも増して大波が荒く不規則に砕け、もう訳のわかんない激流になっている。あーオレここできっと死ぬ。

間違いなくここに突入したら死ぬわ。クソーッ

どうせならマウイの海でウインドしてるとき死にたかったよ。とかなんとか考えているうちに遂に水上峡突入ゥゥゥ!!! 

なんじゃぁぁぁぁ これはぁぁぁ!!(by松田勇作)

 水上から見る風景はとてもこの世のものとは思えない。突然目の前に巨大で尖った波が現れて次の瞬間次の瞬間崩れていく。それが狭く複雑な地形の影響で四方八方からしっちゃかめっちゃかに襲いかかってくる。

 次の瞬間、目の前の巨波の斜面を登っていったきこり艇が

「つぽーーーーーーん」

と宙に飛び出した。カヌーが頭上高く飛び、ひっくり返って波間に消えるあんまりな光景に思考は凍りつき、時間は停止した。

ナニこれ? ここドコ? 私ダレ?

 ニホンジンみんなウソツキネ。ワタシもうクニかえるネ。パスポート返してヨ とかいってるうちにこっちも飛ばされたーーッ

3度目の沈、2つの選択

 こんなコンディションではロールなんかできるはずもない、即沈脱。

 浮き上がって周りを見ると白く泡立つ波が逆巻き、砕け、また沸き起こりすごい速度で流れていく。後方に流れ去る両岸の岩肌を見ると自分も相当な速度で流されているようだ。とりあえずひっくり返ったカヌーにつかまって水上峡の出口まで流されるしかないかの? と思ったがなんかおかしい!

 ライフジャケットを着けてカヌーにつかまっているにもかかわらずちっとも浮かないのだ。おまけに視界には泡立った水と波と岸壁の上のほうしか入らない。顎まで沈んでいるのだから息をするのにしくじる度に水を飲む

もがごげ もげげ

 泡立って空気をたっぷり含んだ川の水がライフジャケットやカヌーの浮力を半減させているのだ!い、いかんこれじゃ水上峡の出口にたどり着く前に水死するか意識を失なってしまう! どうするどうなる日本の教育? じゃねーよ!! そんなこといってる間に溺れ死ぬッて。 選択肢は二つに一つだ。
(沈からここまで10秒)

1:このままカヌーにつかまって水上峡出口まで流される
 普段だったら迷わずこのプランなんだけどなァ。まともに息ができないんだよなぁ。既に水をたらふく飲んでいるし、水温も低い。低体温症で意識を失うほどじゃないが、いざ流れから脱出というタイミングで思い通り体が動かない可能性もある。一見手堅そうだがコレは実は危ない選択肢かも。

そう、あぶねぇよ!!
(この間2秒)

2:岸壁のどこかにとりついて崖を這い上がる
 カヌーとパドルを捨てることが当然前提だ。浮力のあるカヌーから敢えて離れて岩に取り付くこうってんだから、かなりの賭けだ。・・・・・というよりムチャだよ無茶!

 まず運良く岩肌に取り付けるか分からない。これだけの速度で流されているのだから、岩に”ベシャッ”と叩き付けられて、そのままズルズルと流れに飲まれあの世行きという可能性も高い。それに仮に、仮にだ、うまく岩肌に取り付けても、この切り立った岸壁を登り上に脱出できるのかオレは??・・・・・

 これもとてもお勧めできない選択肢だ、

どうするよオイ!!
(この間1秒)

 ガンガン水を飲み、波にあおられながらも変に落ち着いているのは自分でも不思議だが、まぁこれくらいのヤバイ目に何度か遭ってる経験が生きているのだよ はっはっは。

って俺のアホーッ!

 悠長に長考してないでどっちか選べよ! ホントに死んじまうぞォ!

 まぁまぁ、そう急かさないで。そんなに急かしたらいい知恵が出るもんも出なくなりますなァ。こういうときは慌てず、どっしりと落ち着いてですなァ 葉巻でもこう、ふしゅーッと・・・・・

って誰と話してますかワタシは????
(この間0.5秒)

 このままカヌーにつかまって流される方がましか、思い切ってカヌーを捨て、自力で張り出した岩隗に張りつくチャンスに賭けるか。まァどっちもヤバさは五分五分だ。となれば好きな方、自分の納得いく道を選んだ方が後悔しないというもんだ。

死んじゃったら後悔もできないんだけどネ

 ええい! 死して屍拾うモノ無し! 何もしないでただ待っているなんて性に合わーーん!! 死ぬ時は前のめりだ。ヨシ決めた! あの張り出しに何とか取り付いてやる。
(この間0.2秒)

 マイパドルよ、フジタカヌーよサラバだ。お前はまったくイイ艇だったよ、ありがとな。いっしょに長く遊べて良かったよ。じゃあボチボチ行かなきゃ。お別れだ。

そりゃあぁぁぁぁぁッ



ガシッ!!

 左手の指先に岩肌が触れた瞬間、指の筋力を総動員し、ぐわしッと触れたすべてを掴み込む。続いて右手もがっちりと岩をホールド。なんとか体を岩肌に確保した。
(この間1秒)

 その刹那、岩を掴み損なって白く泡立つ流れに無様にズルズル飲み込まれていくもう一人の自分と目が合った。後ろ向きになす術も無く流されながら、力無く手をこちらにさしのべながら、ズブ濡れの子犬のような悲しそうな目でこっちをじっと見ている。生き残った方の自分は、幻影というにはあまりにリアルなこのビジョンをさしたる感慨も無く眺めていた。

ヤバイ目にあうときはいつもこうだ

 分岐していく2つの現実を眺めている醒めた自分がいるらしい。コチラとアチラの世界、「いま生きている自分」の事象と「カヤッカー水死」と朝刊の小さな囲み記事で報じられている事象が目の前でベリバリベリボリと剥離していくあの奇妙な感覚に襲われた。
(この間0.1秒)

 荒い息で岩隗に這い上がり、硬い岩の上にヘタリ込む。まだ生きてる。この硬さと岩肌のひんやりした冷たさはホンモノの世界の方だ。視線を下流にやると自分のカヌーが波に翻弄されて縦になったり飛び跳ねたりしながらアクロバティックに流されていく。ヘタクソが乗っていないほうが

キレのある、いい動きをしてるなァ

と思わず笑ってしまう。

 そうそう、きこりは無事だろうか? オレをレスキューしようとして無茶をしなければいいが。・・・いた! 大分先を無事漕いでいる。そのまま行ってくれー と手を振るが多分気づいてないか。まぁいい、ひとまず二人とも無事ってことだ。さてこれからどうしたもんか・・・・

 ふと向こう岸を見上げると岸壁沿いの観光旅館の5回の部屋から、浴衣姿のおばちゃんがこっちを目を丸くして眺めている。あのおばちゃん、レスキューでも呼んでくれるかなぁ どうかなぁ。

 いや、そんなの期待しててもらちがあかない。何とか自分で脱出しよう と振り返ると、視界に垂直に近く切り立った岩肌と、更にその上方には頼りなげな草木の生い茂る腐葉土の斜面が飛び込んできた。

 ・・・危機は未だ去らず。

フリークライミング&モンキージャンプ

 この壁なぁ 登れるのかよぉオレ。岩肌の部分はなんとか登れたとして問題はその上の腐葉土の斜面だ。足がかりも少ないし、掴んだ木の根っこが運悪く引っこ抜ければ真ッ逆さまに落下してやっぱり川のもずくだ。

くそ−ッ全然事態が好転してねェ!!

 ま、仕方ないからゆっくり登ってみっか?

 よし、岩の斜面はなんとか登れるぞ。ホイホイっと。で、問題の土の斜面だ。斜度は全く変わらない上足元は頼りない腐葉土、丈が高く頼りない草が視界をさえぎっている。その間に幾ばくかの樹木。頼むから抜けないでくれよォ・・・・と手応えを確かめながらそろそろと登る。危ないなぁ。

滑り落ちたらアウトだ

 時々木にたどり着いて一息つく ふう。あ いけねぇ、この上は草ばっかで手がかりないや。仕方ないので少し下に戻りルートを再検討する。うーん、あっちの木にたどり着ければ後はなんとか登れそうなんだが・・・あの木とここの間には手がかりが無い上にちょっと離れてるなぁ・・・・どうしよう? くっそー。・・・そうだサルだ! お前はサルになるのダ!! さるサル猿ゥ むきーッ ウキウキウッキッキ− あの木に飛びつくゾーッ

猿ジャァァァァンプ!!!



ガシッ!!

 ふ、ふ−−ッ あ、危なかった。 いやギリギリだよ全く。馬鹿やってると死ぬぞ、ったくよォ。ここから上は何とかなりそうだ 

 と思ったが・・・・・

それでもまだ終わらない

 木につかまってなんとか順調に登っていく。視界を遮る草むらの向こうが明るい。ようやく斜面は終わりか! あと少しだ、ヨシ。 と遠くから何かの音が見る見る近づいてくる。

『プァァアァァァァァッァァァァんんんふぁんふぁんふぁん』


電車

 ふぇーッ!! あ、あービックリした。なんだよ線路かよ聞いてねェよ、予め教えておいてくれよ!・・・・・・・でもなんとか斜面を登りきったナ。自分でも生きてるのが不思議だ、信じられないよ ぷふーッ。さて向こう側の道路に・・・・・アレ? 

 線路の向こうはつぶれた旅館の建物がそびえ建ってるな。なんか通れなさそうじゃないか? オイオイ、もう堪忍してぇぇぇぇ(泣)!! って泣いててもしょうがないので旅館の窓のさんに取り付いて、ガラス窓伝いに回りこむ。オレはスパイダーマンでも忍者でもないぞーッ あ、非常階段みっけ! もうちょっとでっと、ヨシ。

選挙カーと老紳士

 ヤタ!やっと道路に出た。ここはまぎれも無く人間界だ。しかし人間界に返りつくと、ウェットスーツにスプレーカバーという出で立ちはなんともヘンチクリンだ。あわててスプレーカバーを脱ぐ。と目の前を選挙カーがゆっくりと通りすぎる。ウグイス嬢が訝しげな顔しながらも一応手を振ってくれる。イヤ、オレに手を振っていただいてもここに住民票無いんですけどネ。そっかー今日は選挙かぁ。流されカヤッカーと選挙カー、背後には桜。なんとも変な取り合わせだわなァ・・・ここホントに現世ですかい? 実はオレもう死んでたりして。お、あっちにガソリンスタンドがある。
「あースイマセーン、こんなカッコウですが怪しいものじゃありませーん」
・・・・・怪しいって・・・・・
「申し訳ありませんがタクシー呼んで頂けませんかー」
「は?」
 スタンドの社長がタクシーを呼んでくださり、しばらく世間話をして待つ。社長は上品な白髪の老紳士だ。あー助かった。多謝多謝。ホント感謝してます。いよっ社長!!あんたはエライッ。

合流

 タクシーで上陸予定の場所にたどり着いてみると、既にきこりのカヌーが岸に引き上げられている。
 ん? きこりは? 

 あ、中州にいるぞ? そんでもって、アレは流されたオレのフジタカヌー??? あのカヌー、なんちゅう強運の持ち主!

 ちょうど上陸地点付近の中州に引っかかってオーナーを待ってるとは? それをきこりが回収中ってことか。うん。 アレ? きこりがカヌーを引っ張って川を横切ろうと・・・・・

 げッ 流されてる・・・ マズイ! すぐそこに落ち込みが、その先は更なる激流が! いかん、ダッシュ

ダッダッダッダッダッダッダッダ!

どばーーん、流されないギリギリのところで流されてくるきこりに手を伸ばす!!
届いてくれーッ 頼む! 

ふぁいっとぉぉぉぉぉぉーーーッ  いっぱぁぁぁぁぁつ


ガシッ

 

 

 

 生還。カヌーも無事回収。我ながらなんちゅう悪運?

 こうして我々の利根川チャレンジは終わった。


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